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VOL02 麦島農園

Vol02

栃木県宇都宮市
伝統野菜「新里ねぎ」 麦島農園

守ることと、育てること
伝統野菜「新里ねぎ」の普及への思い。

Locone STORY

Intervier

01

こなれたシャツ姿、強い眼力。流暢な語り…麦島弘文さんには、校長先生や大企業の役員を連想させるようなぱりっとした雰囲気が漂う。麦島さんは宇都宮から日光に向かう途中に位置する新里地区で、江戸時代からこの土地で自家採種栽培されている伝統野菜「新里ねぎ」を守り、多角的に発展させている、その中心にいる人だ。
新里ねぎは曲がった形と、柔らかく生で食べられるほど甘味が強い味が特徴の在来種。元々新里地区で栽培されるねぎは全てこの品種だったが、30 年ほど前から普及してきた現代種(F1種)と比較すると、作るのに大変手間と時間がかかることから、生産量の比率は今では2:8と圧倒的に少ない。

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02

「新里ねぎがおいしいのは、ねぎにとって過酷な環境で育つため、そのストレスに打ち勝とうと種本来の生命力が引き出されてるからなんです」と麦島さんが教えてくれた。4月頃、温室で育てた苗を圃場の畝に沿って植える1度目の植え替えの後、8月の暑い最中には「踏返し」と呼ばれる2度目の植え替え作業が行われる。これは育ってきたねぎを掘り起こし、浅く掘った溝に斜めに寝かせ、白身の成長と共に3〜4回に分けて土をかぶせるという作業。するとねぎは垂直に立ちあがろうとする性質があるので、曲がりながら上に伸びるのだ。植え替えと曲がりながら成長することがねぎにとってストレスであり、おいしさの元となる。

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03

元々堅い土壌で深く穴を掘れなかったため工夫した栽培方法が、結果的においしいねぎを生み出した。新里ねぎは収穫までの期間が現代種に比べて2倍、とにかく手間と時間がかかる。「それでも作り続けるのはね、美味しいからですよ。」麦島さんの言葉は力強い。
伝統というものはそうじてそのようなものだろう。新里ねぎの生産方法は100年余りの間、代々見よう見まねでうけつがれてきたのだという。種の取り方、おいしいねぎの見分け方、有機肥料の配合…麦島さんは父親からすべてを学んだ。「農家と化学と勘どころ両方が必要。同じようにしたつもりでも、毎年全く同じようにはいかないんです。伝統野菜は手間がかかります。

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04

おいしいものつくろうという気合がないとやっていけない」。それがとてつもなく大変なことは想像に難くない。
そんな伝統を持つ新里ねぎは、2017年5月に栃木県ではじめて農林水産省のGI(地理的表示)登録される。これは地域で長年生まれた特別な生産方法によって高い品質や評価を獲得しているものを国に登録して保護する制度である。GI登録の反響は確実にあった。さまざまな補助や、イベント出展によって認知は拡大し、新里ねぎのブランド力は上がっている手ごたえがあるという。
麦島さんはGI登録の前から、新里ねぎのブランド化の策のひとつとして、六次産業(生産者が加工・流通まで手掛けること)と呼ばれる経営形態をとる(株)グルメコンカーズを立ち上げるということもしていた。

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05

「生産者である私たちが六次産業化を進めるには、何より人脈が必要になってきます。加工の技術や設備の知識が必要だし、販売する場も必要になってくる。農家だけでは限界があるんです。それぞれ得意な人たちが集まった方がいい。農園を継ぐ前、サラリーマンをしていた頃の人脈に大いに助けられましたね」と語る。伝統が花開くのは、その価値が広く世間に知れ渡ったとき。麦島さんが尽力した六次産業化・GI登録はその大きなきっかけになったと言えるだろう。
冷静と情熱。麦島さんの思いは常に「変わらず守る」と「新しく切り開いていく」。